下肢静脈瘤・エコノミークラス症候群とマッサージ

下肢静脈瘤とエコノミークラス症候群の違い

下肢静脈瘤の患者さんや家族の方に時々、『マッサージはしないで欲しい』『血栓が脳や心臓に流れて死んでしまうのではないか』と言われることがあります。
ですが、それは下肢静脈瘤ではなくエコノミークラス症候群です。
下肢静脈瘤は良性の病気ですので急に悪化したり命にかかわることはありませんので安心してください。
そこで今回は下肢静脈瘤とエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)について説明します。

最初にマッサージが適応かどうかを書きますと、下肢静脈瘤の場合、マッサージは医学的に推奨されています。
エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)の場合、マッサージはリスクを伴います。
下肢の静脈の血栓を移動させ、肺血栓塞栓症を誘発する可能性があるからです。

エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)って?

エコノミークラス症候群は、脚の静脈の中に血液の塊ができる「深部静脈血栓症」と、 その血の塊が肺に飛んで肺動脈を詰まらせる「肺血栓塞栓症」を合わせて使われています。 医学的には「静脈血栓塞栓症」と呼ばれています。

「エコノミークラス症候群」ってどんな人がなるの?

血管には、心臓から手足に向かって流れる「動脈」と、手足から心臓にかえる「静脈」があり、この中を血液が流れています。動脈に血液を送り出す際は心臓がポンプの役割を果たしますが、静脈は手足の筋肉や弁などのはたらきによって血液を心臓に送り、からだ全体の血液を循環させています。
静脈の流れは、歩行や手足の運動にともなう筋肉の収縮に助けられていますが、長時間同じ姿勢のまま足を動かさずにいると、静脈の流れが悪くなり、血液のかたまり(血栓)ができやすくなります。また、外傷や手術、妊娠、血液が凝固しやすい病気、経口避妊薬(ピル)服用などによっても、血液は凝固しやすくなります。

治療法

血液を固まりにくくする薬と血栓を溶かす薬を投与 深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症の治療には、血液を固まりにくくする「抗凝固薬」や、血栓を溶かす「血栓溶解薬」が用いられます。いずれも出血しやすくなるので注意が必要です。
また、薬剤だけではなく、直接血栓を取り除く手術などが行われることがあります。
なお、経口で飲める抗凝固薬については、新しいお薬も開発され、治療法も進歩しています。

厚生労働省発表 エコノミークラス症候群の予防

〇 予防のために心掛けると良いこと

  1. ときどき、軽い体操やストレッチ運動を行う

  2. 十分にこまめに水分を取る

  3. アルコールを控える。できれば禁煙する

  4. ゆったりとした服装をし、ベルトをきつく締めない

  5. かかとの上げ下ろし運動をしたりふくらはぎを軽くもんだりする

  6. 眠るときは足をあげる

などを行いましょう。

厚労省が勧めるエコノミークラス症候群の予防のための足の運動
具体的で比較的簡単にできる運動については以下の通りです。

  1. 足の指でグーを作る

  2. 足の指をひらく

  3. 足のかかとを上げ下げする

  4. つま先を引き上げる

  5. 膝を両手で抱えて足の力を抜いて足首を回す

  6. ふくらはぎを軽くもむ

エコノミークラス症候群 予防のための足の運動


下肢静脈瘤って?

どのような人が下肢静脈瘤を発症しやすいか

  1. 40代以降の女性

  2. 両親に静脈瘤(足にコブがあった)があった

  3. 妊娠・出産を経験している

  4. 長時間の立ち仕事をしてきた(主婦、工場、畑仕事、警備、教師、美容師、調理師、看護師、など)

  5. ご家族に下肢静脈瘤になったことのある方がいる

  6. 両親とも下肢静脈瘤だと90%、片親のみだと25%の男性・62%の女性に発症すると言われています[※参照]

※Cornu-Thenard A, Boivin P, Baud J M, et al.: Importance of the familial factor in varicose disease. J Dermatol Surg Oncol 20:318–326,1994

下肢静脈瘤の症状の分類

下肢静脈瘤には大きく分けて血管がボコボコと浮き上がってコブを作る伏在静脈瘤型と、細長い毛細血管がクモの巣状、網目状に皮膚表面に広がるタイプがあります。
これらは治療方法が異なりコブのタイプでは手術や高周波療法、クモの巣状タイプは硬化療法となります。
下肢静脈瘤を発症すると、初期にはなんとなく夕方から足がだるい、重い、くるぶしあたりがむくむ、足が頻繁につるといった症状が起こります。
その後、除々に進行していくと皮膚の表面の毛細血管が変形していきクモの巣のようか細い血管が現れるようになります。さらに進行すると伏在静脈瘤といって膝下やふくらはぎの太い静脈がボコボコと立体的に膨れ上がります。
静脈の変形によって血液の循環が悪くなると皮膚の炎症を起こし、湿疹や黒ずみ、皮膚の潰瘍などを引き起こします。

下肢静脈瘤の症状の分類

下肢静脈瘤の原因について

心臓から動脈で全身に血液が送られると、今度は静脈を使って体の隅々から心臓へ向けて血液を返しています。このとき足の先まで送られた血液を心臓まで戻すには重力に逆らって送り出す必要があり、血液が重力に負けて逆流しないように静脈には血液の逆流を防ぐ逆流防止弁が備わっています。
下肢静脈瘤の発症はこの逆流防止弁が壊れて血液が逆流することが原因です。血液の循環不全に伴いむくみや痛み、こむら返りといった症状が起こり、逆流しうっ滞した血液が末梢の静脈の壁を壊し瘤を形成していきます。

静脈の逆流防止弁が壊れる原因

立ち仕事

長時間立ったままの姿勢だと下肢に血液が溜まり静脈瘤になりやすくなります。調理師やアパレル業、キャビンアテンダントなどの職業で多く認められます。

加齢

血管の老化に伴って静脈弁も劣化していきます。

遺伝

親兄弟など血縁者に下肢静脈瘤が多い場合、遺伝的に逆流防止弁の働きが弱い体質のことがあります

女性

足の血液を心臓へ送り出すにはふくらはぎの筋肉によるポンプ運動が必要です。女性は男性と比べふくらはぎの筋肉が弱く血液が溜まりやすいです。
また妊娠すると血管を拡張するプロゲステロンという女性ホルモンが分泌され静脈が拡張し逆流を起こしやすくなります。また妊娠中は腹圧が上がって下肢の血流が悪くなり弁が壊れやすい状態になります。

生活習慣

運動不足や中性脂肪、糖質の取り過ぎによる生活習慣病は動脈硬化のみでなく静脈にも負担を起こします。

予防、指圧・マッサージについて

下肢静脈瘤の予防法は足を圧迫して静脈内のうっ滞を取り除き、足の静脈に負担がかからない状態をつくることになります。静脈瘤が軽度であれば毎日のエクササイズや指圧、マッサージで足の負担を減らせばある程度進行を遅らせることができます。下肢の静脈はふくらはぎの筋肉のポンピング作用によって血液を心臓へと送っています。ふくらはぎの筋肉を鍛えることでポンピングの効果が高まるため、毎日のウォーキングなどよく歩くことが大事です。太り過ぎは腹圧が高くなり下肢静脈の圧が高くなるため良くありません。立ち仕事であれば弾性ストッキングを着用するとよいでしょう。また適度に指圧、マッサージを行い静脈のうっ滞を取り除きましょう。

治療法

下肢静脈瘤はいったん発症すると自然に治ることはありません。
ですが、下肢静脈瘤があることは分かっていても、痛くもかゆくもなく、そのまま放っている人も多く、そのような場合、 大きなトラブルにつながることも少ないと考えられます。
ですが、痛みがある場合はレーザー(血管内焼灼術)治療や硬化治療をすることが一般的な治療法です。
硬化治療は静脈瘤に薬剤(硬化剤)を注入することで血管をつぶし、退化させる方法です。1~2時間の治療で歩いて帰れる日帰り治療です。